小説・十分に発達した魔法は科学と区別がつかない

Chapter 01

ある日のことです。

それはとても爽やかな日でした。

白い陽射しはちょうどよい具合にやわらかく、かすかなそよ風は心地よい。

春。

私はそんな気候を目一杯、満喫するために自宅を出て散歩することに決めました。

午前11時を回った頃です。

道中、なんともなしに近所の古書店に立ち寄りました。

店内は薄暗くて埃っぽく、時間が止まったかのような静謐とした空間でした。

本棚に囲まれた空間の中をコツコツと歩き進めていくと不図面白そうな本の背表紙が目に留まりました。

『公理論的魔術論 <魔術発生過程の数学的原理>』

真っ黒な表紙に銀色の流麗な太い明朝体で題名が書かれていて、どこか厳かな雰囲気をまとっていました。

そこには深淵な、例えばこの世界についての真理が隠されているのではないか。

私は何かに導かれるかのようにして無意識に手を伸ばし、気づいたときにはページをパラパラと繰っていました。

パッと見ただけではわかりそうにない複雑な形をした数式や記号とわずかな説明の言葉、そして大きな円を基調に大小の円、または円に内接する三角形などが無数に描かれたおそらくは魔法陣と思しき図が所狭しとページを埋め尽くしていました。

そこには世界がありました。

私たちの日常からかけ離れた、でもその日常を背後で支配するダイナミックで遠大な構造。

そういったものがこの本の奥のほうで横たわっている。

私はそう確信しました。

パタン、と本を閉じて値札を見遣るとかすれた印字で「現品限り 12800円」と書かれていました。

その高額さに驚きはしたものの、この本にはそれに見合うだけの価値があるように思えてなりません。

買ってしまおうかどうしようかと一瞬躊躇しましたが、本とは一期一会の出会いです。

これも何かの縁だと思い、暇そうにしている店主のほうへ向かいました。

私が「これ買います」と言ってその本を差し出すと、店主は特段愛想も浮かべず値段を告げ、会計を手早く済ませました。

こうして私のものとなったこの奇妙な本を私は大事にショルダーバッグへしまい、古書店を後にしたのです。

表紙 Chapter 02