小説・十分に発達した魔法は科学と区別がつかない

Chapter 02

その日の午後。

散歩から帰った私はひと息ついた後、先ほど衝動買いした魔術理論書を手に取り眺めていました。

正直、今となってはなぜこんな高額な本を買ってしまったのだろうと後悔していました。

しかし、買ってしまった以上は読まなければなおさら損というもの。

とにかく読もう。そう心に決めました。

重厚な造りの表紙をめくり、「前書き」と書かれたところから読み始める。

文体は古風で回りくどく、読みにくいことこの上ない。

曰く本書は、有史以前から伝わる実践魔術の作動原理・メカニズムをいくつかの基本法則を公理とした数学体系で説明を与える魔術理論書なのだそうです。

なぜ魔術が数学によって定式化できるのか。

それは、魔術発動が人間の脳機能によって成されるからであり、その制御は高次の演繹的思考によって支えられているからなのだとか。

さらに魔術を実行する際の魔法詠唱という精神内の行為が物理世界に影響を与えられるのは、魔術実行者の無意識層よりもさらに下の精神構造であるユング的集合無意識層が活発化し、唯物論的現象界の層がそれに感応した結果だとも論じられています。

意味はわからなくもないけど、完全にわかった気もしない。

おそらくこのまま読み進めていけば、いくぶんわかった気にさせてくれるのかもしれません。

ですが、ここまで読んで私はだいぶ集中力を擦り減らしたようです。

春の快い気候も相まって、私はいつしか眠りに落ちていました。

表紙 Chapter 03